作 星乃マロン
平和について詩にしてください と
敬愛する方から言われた
その方の平和への思いが あまりにもしなやかに強く
幾重にも何層にも連なる 奥深い地層に思えて
その方の依頼する平和という言葉の重みや願いが
しずかに重なり 水の輪を描いていく
今日 薔薇が咲きましたよ と
道路の向こう側のご夫婦が 私に話しかける
ご夫婦は三十年も前から薔薇を大切に手入れしている
薔薇が咲いた その「薔薇」という言葉に
育んできた歳月が 重なる
「平和」という言葉も また
奥深い森のざわめきのように 重なり合う
幾重にも 水の輪のように 何千何万と
私たちの平和への たくさんの願いや
眠ってしまった人々の深い叫び
忘れ去られた声なき声
それらすべてを ひとつの歌にして
わたしは 鳥を放ちたい
平和の歌を 当たり前のように唄う 一羽の鳥を
おびただしい世界中の人々の平和への祈りが
どんどん重なり 響きあいながら
滝のようにも 洪水のようにも 嵐のようにもなり
やがて鎮まる あの大きな湖のように
やわらかな ひとつの水の輪に
平和よ 一羽の鳥よ
ああ この奇跡に銃を向けるな
湖に 水がたたえられている
その奇跡が 永久(とわ)に ありますように
蒼くたたえた湖の 底知れない思いが
水底を突きあげ 温かい 新しい水が
やがて 自然に湧きあがるように
人間だけでなく 生きとし生けるもの
すべての声を愛おしむ 新しい平和が
どうか 生まれますように
これは 湖が語ってくれたこと