作 星乃マロン
わたしは時々
自分が さくらの樹であればと 思うことがある。
身のうちの 仄かな ひかりを
さくら色の 淡い炎にかえて ひと夜のうちに咲ききる
大地に佇む さくらの樹になりたい。
わたし自身のいのちに わたし自身がそっと触れる。
すると 樹液のように わたしの想いは たち昇り
さくら色に 透き通り いくつもの つぼみとなり
やがて うすい花びら ひとつひとつを
力強く 押し広げ
わたしというひとりを超えた いのちの全体を映して
満開になっていく さくらの樹々よ。
わたしは いつも 揺さぶられる。
手放せないたくさんの出来事や 耐え難い いくつものこと。
かなしみや傷について
わきあがる祈りのようなもの。
芽吹いてくる ちいさいけれど確かなもの。
美しい希(ねが)い。
それらすべてを 一年に一度
透き通る さくら色にして
さくらの樹は咲ききる。
わたしの内なるすべてを
やわらかい花びらのかたちにして
穏やかに 力強く 大地の上に
さくら色のひかり全体として現れるのだ。
わたしは いつも 揺さぶられる
この身に抱えきれぬほどの 春の歓喜に。
そこを 吹き抜ける大きな風に。
わたしは わたしの花びらを 大地に放とう。
惜しげもなく 千の花びらを 舞い上がらせよう。
わたしの たくさんの 怖れ そして 愛も。
さくらは散りきり
鎮まり 大地に還り
やわらかい炎になって
ちいさなわたしを しずかに 燃やす。
わたしの中の 愛おしいたくさんの燈かり。
それらをつなげる 大きないのち。
樹の中に 見えない祈りが流れ
限りない 安らぎに包まれて
歳月を重ね 咲き続ける桜の樹々よ。
幾千の花びらになり 月のひかりに 透き通る
ひとひら ひとひらに宿る 無限というもの。
わたしは 桜の樹になりたい。
作 星乃 真呂夢